第30回日EU定期首脳協議共同声明
1.日EU戦略的パートナーシップは、今日ほど強固になったことはなく、これまで以上に重要である。日本とEUは、法の支配、基本的自由、民主主義、人権、開かれた自由で公正な貿易を含む価値と原則を固く共有している。我々は、日EU戦略的パートナーシップ協定(SPA)及び日EU経済連携協定(EPA)を法的基盤として、あらゆる面でパートナーシップをさらに強化していく。
2.変化し、複雑な世界の地政学的状況、特に、ロシアのウクライナに対する侵略戦争、自由で開かれたインド太平洋に対する深刻な挑戦並びにその他の地域及び国際的な問題を背景として、我々のより緊密な協力はこれまで以上に重要になっている。
3.我々は、これらの課題に対処するために志を同じくする国際的パートナーと協力にコミットし、これにより、国連憲章を含む国際法を尊重しつつ、効果的、包摂的、公平かつ安定したグローバルガバナンス、多国間主義及び法の支配に基づく国際秩序への強いコミットメントを堅持する。
安全保障・防衛協力
4.欧州とインド太平洋の安全保障は相互に連関している。我々は、防衛力を強化するための日本とEUそれぞれの取組を評価し、特に、外相戦略対話及び日EU局長級安全保障・防衛対話を通じ、安全保障・防衛分野における日EU間の更なる協力を模索することで一致している。
5.日本とEUは多くの共通の課題に直面しており、サイバーセキュリティ、外国による情報操作及び干渉(FIMI)を含むハイブリッド脅威、海洋安全保障、宇宙安全保障、軍縮・不拡散、女性・平和・安全保障(WPS)等の分野において、日EU安全保障・防衛パートナーシップを実施するために協力することにコミットしている。
6.我々は、防衛産業基盤を強化することが日本とEUにとって共通の優先事項であることを認識しており、日EU防衛産業対話の立ち上げ及び防衛産業分野における更なる協力を期待する。
7.我々は、国際法、特に国連海洋法条約(UNCLOS)に従った、航行及び上空飛行の自由の確保や、重要な海底インフラの保護を含む海洋安全保障の重要性を認識する。
8.我々は、日EU情報保護協定の正式交渉の開始を歓迎する。
ルールに基づく国際経済秩序への貢献、経済安全保障及び強靱性の深化、競争力の強化
9.過去50年間にわたり育んできた経済的パートナーシップに基づき、日本とEUは、安定的で予測可能なルールに基づく自由で公正な経済秩序の維持と強化に引き続き貢献する。我々は、世界貿易機関(WTO)を中核とする自由でルールに基づく多角的貿易体制を堅持するための日EUの協力及び我々の連携した取組を通じたとりわけ公平な競争条件を確保することを目的としたその他の多数国間協力の取組の促進の重要性を再確認する。
10. 我々は、強靱で持続可能な経済成長を維持するため、増大する共通の経済安全保障上のリスクに共同で対処すること及びG7やOECDなどの国際的なフォーラムにおける議論を共同で主導することの重要性を再確認する。
11. 我々は、重要鉱物のサプライチェーンの強靱化と多角化を含む、サプライチェーンの強靱性の向上と戦略的依存関係の低減に関する協力を強化し、経済的威圧と非市場的政策及び慣行に対処する。我々は、重要技術及び新興技術の促進及び保護のための協力を強化する。我々はまた、ネット・ゼロに向けた多様な道筋の重要性を認め、エネルギー分野における緊密な協力を確認する。
12. この文脈において、我々は、日EU間の協力を通じて双方の競争力を戦略的に一層強化し、共に成長するために、日EU競争力アライアンスを立ち上げる。
13. 我々は、日EU・EPAの完全かつ効果的な実施が、我々の貿易・投資関係の強靭性の強化及びEPAがもたらす機会から市民及びビジネス界が十分に利益を得ることの確保のために重要であることを認識する。我々は、2025年5月8日に東京で開催された第6回日EUハイレベル経済対話における議論を歓迎し、特に、投資機会の促進を含む、経済安全保障、貿易及び産業政策等の重要な分野における日EU間の戦略的な経済上の協力を強化するため、日EUハイレベル経済対話の拡大を承認する。
14. 我々は、日EUグリーン・アライアンス、持続可能な連結性及び質の高いインフラに関する日EUパートナーシップ並びに日EUデジタルパートナーシップに基づく強化された協力を引き続き推進する。
国連中心の多国間主義の擁護
15. 国連へのグローバルなコミットメント及び国際法の尊重を強化することは不可欠である。今日の多国間秩序の中核である国連は、2025年に80周年を迎える。日本とEUは、国連憲章とその中に定められた基本原則を堅持し続ける。我々は、より効果的で、費用対効果が高く、透明性があり、対応力のある国連を実現するためのU N80イニシアティブの推進を含め、強く、予測可能で、信頼できる国連のパートナーであり続ける。
16. 我々は、平和・安全保障、貿易、人権・ジェンダー平等、軍縮・不拡散、宇宙、気候・環境、人道援助、開発、テロ・国際組織犯罪との闘い、サイバー・AI、研究、教育・文化、労働、運輸等、多国間主義に基づく様々な分野における日EU協力の継続的な拡大を高く評価する。
17. 我々は、気候変動、生物多様性の損失及び汚染という三重の地球規模危機が存亡に関わる脅威であることを認識し、パリ協定、生物多様性条約第15回締約国会議で採択された昆明・モントリオール生物多様性枠組及びその他の関連する多国間環境協定及び枠組と断固として共にある。我々は、グローバルで、公正かつ包括的なグリーン移行を加速するために、すべてのパートナーと協力する。我々は、COP30の成功に貢献することに引き続きコミットしており、この決定的な10年間及びその後において、世界的に更なる緩和の野心が求められることを強調する。
地域情勢
18. 我々は、国際法、特に国連憲章の明白な違反を構成する、ロシアのウクライナに対する侵略戦争への断固とした非難を改めて表明する。
19. 我々は、ウクライナにおける包括的で公正かつ永続的な平和を確保するための我々のコミットメントを強調し、これは、国際的に認められた国境内におけるウクライナの独立、主権、領土一体性を尊重するものである。我々は、必要とされる限り、ウクライナに政治、財政、経済、人道、安全保障・防衛、外交に関する継続的な支援を提供するという揺るぎないコミットメントを再確認する。我々は、ロシアの侵略戦争を終結させ、国連憲章の諸原則に基づく包括的で公正かつ永続的な平和を回復する目的で、完全で無条件の停戦及び真の平和のための意義のある対話を求めるウクライナ及び国際的なパートナーに加わる。
20. 進展がない間、我々は、制裁及び制裁迂回策に対処するための措置を通じたものを含め、ロシアに対し、引き続き圧力をかける。我々は、全ての適用可能な法令及びそれぞれの法制度と整合的に、ロシアがウクライナに対する侵略戦争をやめ、ウクライナに対して自らが生じさせた損害に対してロシアが支払い行うまで、我々の管轄下にあるロシアの国家が有する資産を引き続き動かせないようにしておくべきことを確認する。我々は、ウクライナに対する侵略犯罪に関する特別法廷の設立への支援を含め、ロシアの侵略戦争に関連して犯された戦争犯罪及びその他の重大犯罪について、完全な説明責任を確保することにコミットしている。我々はまた、ウクライナドナープラットフォームや2025年7月のローマにおけるウクライナ復興会議を通じた、ウクライナの復旧、復興及び再建への支援に引き続きコミットする。
21. 我々は、ロシアのウクライナに対する侵略戦争を継続させることを可能にする第三者及びその中の行為者や団体による支援を非難し、全ての当事者に対し、制裁迂回支援やロシアへのデュアルユース製品の提供を含む、ロシアへのあらゆる直接的又は間接的な支援を直ちに停止するよう強く求める。我々は特に、ロシアの北朝鮮との拡大する軍事協力を強く非難する。我々は、ロシアから北朝鮮へのいかなる支援も、朝鮮半島の既に緊迫した状況を悪化させる可能性があるという懸念を共有している。我々は、ロシア及び北朝鮮に対し、全てのそのような活動を直ちに停止し、国連憲章及び全ての関連する国連安保理決議を遵守するよう強く求める。
22. 我々はまた、モルドバ共和国の主権と領土の一体性に対する継続的な支持を再確認し、ロシアによるウクライナ侵略戦争の影響や、特に、議会選挙を控え、外国勢力やその代理人によるモルドバの民主主義に対する干渉の試みへの対処における、モルドバの強靱性を強化する。
23. 日本とEUは、自由で開かれたインド太平洋における平和と繁栄を促進するために国際法を堅持することの重要性を確認する。我々は、東シナ海及び南シナ海における状況に関する深刻な懸念を改めて表明し、力又は威圧によるいかなる一方的な現状変更の試みにも引き続き強く反対する。我々は、南シナ海における係争地形の軍事化、威圧と威嚇に対し、深刻な懸念を表明する。我々は、航行及び上空飛行の自由の堅持、国際法、特に国連海洋法条約(UNCLOS)に従った紛争の平和的解決の重要性を再確認する。我々は、国際社会の安全と繁栄に不可欠な台湾海峡の平和と安定の重要性を強調する。我々は、台湾に関する基本的な政策に変更はないことを再確認する。我々は、両岸問題の平和的解決を促す。我々は、力又は威圧によるいかなる一方的な現状変更の試みにも反対することを改めて表明する。
24. 我々は、北朝鮮の核・弾道ミサイル計画の進展を強く非難し、国連安保理決議に従った朝鮮半島の完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な非核化へのコミットメントを再確認する。我々はまた、全ての国連加盟国に対し、全ての関連する国連安保理決議を完全に履行するよう求める。我々は、暗号資産の窃取を含む北朝鮮の悪意あるサイバー活動に対する深刻な懸念及びこれに共に対処する必要性を表明する。我々は、北朝鮮に対し、人道援助機関に対するアクセスの許可、人権の尊重、そしてとりわけ拉致問題の即時解決を強く求める。
25. 日本とEUは、中東における地域の平和と安定の促進にコミットしている。我々は、ガザにおける即時かつ恒久的な停戦の実現、全ての人質の解放及び人道的行動の原則に沿った、ガザへの人道援助の妨げのない流入へのコミットメントを再確認する。我々は、全ての当事者が常に、人道支援従事者を含む全ての民間人の保護を確保しなければならないことを想起する。我々は、二国家解決に基づく永続的で持続可能な和平を追求することの重要性を強調する。我々は、西岸地区の情勢の更なる悪化を強く非難する。我々は、平和で包摂的で安定した政治的な未来に向けて努力するシリアの人々への支援を表明する。我々はまた、レバノンの安定化、復興及び改革に向けた努力への支援を表明する。
26. 我々は、イスラエルとイランとの間の敵対行為の停止を歓迎し、全ての当事者に対し、国際法を遵守し、自制を示し、新たなエスカレーションにつながり得る行動を控えるよう強く求める。我々は常に、イランによる核兵器の獲得は決して許されてはならないこと、及び、イランは同国の包括的保障措置協定を含む、核兵器不拡散条約(NPT)の下での法的拘束力のある原子力保障措置義務を遵守しなければならないことを明確にしてきた。我々はイランに対し、イランの核不拡散に関する義務及びコミットメントの遵守を検証する責任を負う唯一の公平な国際機関であるIAEAとの完全な協力を再開するよう求める。これは、この問題の外交的解決にとって重要となる。さらに、我々は、国際的な核不拡散体制の礎としてのNPTの中心的な役割を強調し、イランがNPTの締約国であり続け、NPTの下での義務を完全に履行することが不可欠であると考えている。我々は、緊張を緩和するための、また、交渉によってのみ達成され得る、イラン核問題の永続的、包括的で検証可能な外交的解決をもたらすためのあらゆる外交努力に引き続き貢献していく。我々は、また、ロシアとイランとの間の軍事協力に対する懸念を表明する。
27. 日本とEUは、アフガニスタンにおける悪化する人道・人権状況を重大な懸念をもって留意する。我々は、タリバンがアフガニスタンの全ての国際法上の義務、特に人権に関する義務を完全に遵守することを確保する責任及びアフガニスタンがテロの安全な避難所にならないようにする責任を強調する。
結論
28. 我々は、大阪・関西万博の成功裏の開催を歓迎する。
29. 我々は、二国間関係において達成された実質的な進展を認め、戦略的パートナーシップの更なる強化へのコミットメントを再確認する。
共同声明付属書 I(仮訳):成果と優先事項はこちら
共同声明付属書 II(仮訳):日EU競争力アライアンスはこちら